アダルトビデオ(AV)の出演被害が問題として取り上げられている中、対AVプロダクション、メーカーに関する裁判が注目を集めています。
2014年にメーカーが出演女性に対して損害賠償を申し立てた裁判は、記憶に新しいと思いますが、メーカーやプロダクションに対する刑事裁判も増えているのが実情です。
何かと裁判沙汰の多いAV業界ですが、①AVが一般社会に広く普及してきたことと、②業界内で法整備がきちんと行われていないことが関係していると思われます。
今回の記事では、AV業界に関する過去の判例や、出演被害に遭った女性がプロダクションまたはメーカーへ裁判を申し立てるために必要なことについてまとめました。
筆者はプロダクション側の人間です。しかし、日頃、女優さん達とコンタクトを取っている身として、AVに関わる女性が少しでも後悔して欲しくないという気持ちで執筆しました。
▽この記事でわかること
AV業界に実在する裁判事例
AV業界では、過去にどのような裁判沙汰があったのでしょうか。
出演拒否をした所属タレントへプロダクションが違約金を請求
2014年に、某AVプロダクションが、出演を拒んだ所属タレントを相手に裁判を申し立て、損害賠償として2460万円の違約金を請求した事件は有名です。
違約金には、①撮影キャンセル料や、②タレントを売り込むための経費などが含まれており、裁判では、原告は契約書には違約金に関する記載がされていたことを主張しました。
しかし、原告は、被告に無断でメーカーと契約を結んでいたそうで、「被告の意思に反するのに関わらず出演させる行為は許されない」ために、原告の主張は認められませんでした。
参考:「AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと|Yahoo!Japanニュース」
出演強要させたメーカーへ刑事告訴
2017年10月に、大阪地裁は、出演強要を理由にDVD販売会社の代表へ実刑判決を言い渡しました。判決の内容は、
- 懲役3年
- 保護観察付き執行猶予5年
- 罰金30万円
です。被告は、被害者の一人へ20万円の慰謝料を支払ったために、執行猶予付きの判決が言い渡されました。しかし、常習的に犯行を行っていたため再犯の恐れがあることを理由に、執行猶予の期間は最長の5年になりました。
参考:「AV出演の承諾強要で有罪判決、大阪地裁|日本経済新聞」
AVの出演者が裁判で訴えるためには
AVへの出演を後悔している女性は少なくありません(参考記事:「後悔」)。
「出演の過去を消したい」「妊娠してしまった」「無理やり出演させられた」など理由は様々ですが、裁判によって多少なりとも後悔の念を払拭することは可能だと思います。
出演作の削除したい場合|具体的な削除方法
AVの出演を後悔している女性にとって、過去に出演した作品は他人には見られたくないはずです。違法アップロードされたAVに関しては、著作権侵害、名誉毀損、プライバシー侵害を理由に削除申請を訴えることができます。
市場に出回ったAVに関しては回収が困難ですが、契約書の内容によっては配信停止することができるかもしれません。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
妊娠被害に遭った場合
AVに出演したことにより妊娠被害に遭った女性は、所属プロダクションと、AV制作メーカーへ、裁判所で損賠倍賞請求を申し立てることをオススメします。
損害賠償金の内訳は以下の通りです。
- 中絶費用
- 出産費用
- 妊娠による慰謝料
民事裁判では警察からの介入はないので、詳しくは弁護士へ相談するか、法テラスなどの公的機関を活用しましょう。
【AVと妊娠に関するコラム】「AVの妊娠対策|中出しAVで妊娠する可能性と安全管理」 |
出演被害に遭った場合
プロダクションやメーカーから無理やりAVに出演させられたら、すぐに警察へ被害届を出しましょう。
2017年7月から性的被害は親告罪ではなくなり、取り締まりが強化されるようになったため警察も親身に対応してくれるかと思います。
警察が事件として取り上げた場合、刑事裁判を起訴するのは検察官になるため、被害者が裁判の手続きをする必要はありません。
また、刑法に反する可能性のあるAVの業務は以下の通りになります。
- 出演拒否により違約金を請求する:強姦罪違反
- スカウト行為:職業安定法違反
- メーカーへのAV女優の派遣:労働者派遣法
《引用》
・刑法177条
暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
引用:刑法177条
・職業安定法44条
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
引用:職業安定法44条
・労働者派遣法58条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
第五十八条 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は、一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処する。
引用:労働者派遣法58条
また、プロダクション側との雇用契約が認められるのであれば、労働基準監督署へ訴えるのも一つの手段です。
出演被害に遭った女性が泣き寝入りする理由
出演被害に遭った女性が裁判を起こす方法をご紹介しましたが、実際のところ多くの方は訴えることができないと言われています。
プロダクション名を公表するリスクを感じるから
その理由の内の一つは、プロダクション名を公表することにリスクを感じるからです。
出演被害に遭った女性はプロダクション側から精神的にきつく詰められているケースが多く、「訴えたら報復を受けるのではないか」と恐れ、なかなか行動に移せないのです。
顔バレしたくないから
プライバシーが侵害されることが恐れ、行動に移せない女性が多いのも事実です。
出演被害に遭った女性の多くは、AVに出演した事実を汚点だと思っており、周りの人にその事実を知られたくないと思っています。
裁判沙汰にもなれば事実が公になる可能性があるため、行動に移せない女性は多いのです。
しかし過去に、裁判所が裁判記録に閲覧謄写制限をかける判断してくれた事例もあります。適切な手続きの元で裁判を進めて行けば、プライバシーへの配慮も可能だと言えます。
傷口に塩を塗りたくないから
AVに出演した事実を忘れたいと思う女性も多いようです。傷口が深いあまり、訴えを起こすことはおろか、そっとして欲しいと思うのかもしれません。
もし不安な場合は公的機関へ相談しよう
出演被害に遭いそう、または出演被害に遭った女性が行動に移すことは難しいと思いますが、行動に移すことは難しい場合は、公的機関へ相談することをオススメします。
周囲への方への相談は勇気が要りますが、公的機関であれば守秘義務があるので、周りへ知られることもないでしょう。以下の記事で出演被害に遭った場合の相談先をまとめましたので参考にしてください。